稲田の緑のじゅうたん〜鹿行の道を巡る〜

鹿島アントラーズby:鹿島アントラーズ

2003年に走り始めてからフルマラソンを63回、100キロマラソンを9回、経験してきた。早朝、主に北浦周辺を走るのが日常になっている。気持ちのいい鹿行地域のロードの魅力、ランニングの魅力を綴っていく。

午前5時に寝床を離れると、強くはないが、雨が降っていた。それでも、オートマチックにランニングウエアに着替える。シューズを履いて外に出る。これまでなら、迷い、ためらっていただろう。

しかし、梅雨の時期、雨を理由に走らないでいたら、走る日がなくなってしまう。それに、雨天ならでは味わえるものがある。だから、前夜から天気がどうあろうと、必ず走ると決めていた。

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水田に囲まれた農道を走る。真っ青な稲が雨に濡れ、みずみずしい。しっとりとした潤いのある世界を味わう。「雨天ラン」ならではの幸福ではないか。雨に打たれているのに、心が満ちてくる。

水田の間を縫うように走る。水を感じる。鹿行を感じる。アジアを感じる。

北浦、鰐川(わにがわ)、外浪逆浦(そとなさかうら)、常陸利根川に面した鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市のあちこちに、そんな世界が広がっている。このあたりでは市街地からちょっと走れば、潤いのある世界に行き着き、水田の美しさに目を奪われる。

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季節が変われば、また違う美しさを味わえる。黄金色に彩られた世界は格別だ。田植えの時期なら、水面に青空や雲が映っている。それがまた鹿行の「農道ラン」の魅力だろう。

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自家用車ではなく、自分の脚でゆったりと走っているから味わえるものなのかもしれない。その時空に身を委ねることで、しっとりとしたものが心身にしみこんでくる。

井上ひさしの「コメの話」にこんな一文がある。

「遠くに山があって、その下に緑のジュウタンが敷きつめてあるみたいで、緑が脳のあいだにずっと滲み(しみ)入ってくるような感じがしますけれども、そういう人の心に及ぼす効果も水田はもっている」

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まさしく、そういう効果を私は心身で感じている。

鹿嶋市の新神宮橋のわずか北の北浦左岸にお気に入りの道がある。ほんのちょっと高台になった地点からながめると、広がる水田の先に北浦がのぞく。天気が良ければ、私の故郷に近い筑波山まで望める。

何でもない風景ではある。絶景が広がっているわけではない。よくある風景に違いない。観光スポットにはなりえない。

それなのに、足を向けてしまう。晴れ渡っていなくとも、しとしとと雨が降っていようと、行きつくと、ホッとする。心が和む。やはり、それはいい風景なのかもしれない。

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文・写真:吉田(鹿島アントラーズ 地域連携チーム)


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