古墳に眠る宝物② 志崎1号墳出土【長頸壺】

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鹿嶋市の古墳に眠る宝物の第2回目は志崎1号墳出土の長頸壺です。

 志崎古墳群は、鹿嶋市北側の市境に位置する鹿嶋市志崎の舌状台地北端に所在する古墳群です。古墳群は3基以上から形成されていたとみられますが、畑地造成のため昭和49年までにその多くが消滅してしまいました。今回紹介する長頸壺が発見された1号墳は西側に北浦を見下ろす台地の縁辺部にあり、土砂採取の際に発見されたものです。平成22年から25年まで発掘調査され、記録保存がなされました。

 1号墳は帆立貝のような墳形を持つ帆立貝形古墳と推定され、墳丘裾付近に埋葬施設をもつ変則古墳であると考えられます。埋葬施設は筑波山南麓付近で切り出されたと考えられるホルンフェルス(通称つくば石)の板石を組み合わせて作られています。このつくば石を主体部の石材とする古墳は、霞ヶ浦沿岸と霞ヶ浦につながる河川を中心とした地域に多く分布しています。また、出土した遺物から7世紀の終わり頃につくられた終末期古墳であり、実際に誰かが埋葬された形跡はなく空墓と考えられています

 さて今回紹介する須恵器の長頸壺は、そんな志崎1号墳の玄室前の通路(墓道)から見つかった3点のうちの1点になります。名前の通り「長い頸(首)」を持つうつわです。日常の食器としてではなく、お祀りの道具として使われたと考えられています。作り方は主にロクロ等を用いて成形した後、胴下部をヘラ削りし整えています。自立させるために非常に低い高台がついています。口縁部から胴上部には一部自然釉が掛かります。とても整った形をしており、当時の職人が精魂込めて造ったのでしょう。産地については鹿嶋市から約300km以上も離れた静岡県の浜名湖の近くで操業されていた湖西窯産とされています。この窯元からは長い間、非常に多くの美しいうつわが全国に広く流通しており、今回紹介する長頸壺もこのうちの一つです。

 志崎1号墳にはこのほかにも愛知県の猿投窯から同様に美しいフラスコ型長頸瓶がもたらされています。現在のように大型ショッピングセンターやインターネットショッピングがない中、遠方からこれらのような物品を仕入れるためには、お金はもちろん、外からの珍しい品を手に入れる流通ルート、あるいは人脈が必要となるでしょう。志崎1号墳の主は鹿嶋の中だけでなく、もっと広いコミュニティで活躍していたのかもしれません。


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