走り出すと魅力的な道へと導かれる。気持ちのいい道がランナーを待っているのではないか、と感じることがある。たとえば、気になる角を曲がってみると、その先で気が晴れる場所に行き着くことがある。
鹿嶋市の北浦左岸を少し離れ、丘の裾を走っていると、細く暗い上り坂になぜか引かれた。この先に何があるのだろう。どこにつながっているのだろう。自由気ままに行く先を選べる点がランニングの楽しいところだ。
湿った坂を上り切ると、茨城県企業局鹿行水道事務所の浄水所の裏に出た。さらに進んでいくと、「えっ」というポイントに巡り合った。
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高台の縁の林を切り開いた狭い隙間から北浦がわずかに望めるではないか。絶景というほどではないが、新鮮な驚きを感じる。こういう場所に偶然、行き着くと、宝物を拾った気分になる。
その先で遭遇したのは、宮中野古墳群のひとつである夫婦塚古墳。100基以上を数える古墳群の中で最大のものであり、6世紀に築かれた全長107・5メートルの前方後円墳だという。あの細い坂道はここにつながっていたのか。このへんなら知っている。
古墳を離れ、豊郷小学校の方向に下りていくと水神社が構えている。水運の神である水速女神(みずはやめのみこと)を祀る小さな社を包む森閑とした空気で、気持ちが落ち着く。
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このあたり(鹿嶋市須賀)に来たら、剣聖・塚原卜伝(つかはら・ぼくでん)の墓に向かわないわけにはいかない。
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古武道の鹿島新当流の流祖であり、足利義輝、山本勘助、細川幽斎にも指南したという卜伝は故郷の鹿嶋で1571年に生涯を閉じた。その墓が梅香寺跡の小高い場所にある。ランナーでなくても立ち寄って、戦国の世に思いを馳せる価値がある。
卜伝の墓から見下ろす稲田の中に、こんもりとした鎮守の森が見える。足を運んでみると出世稲荷神社だという。神域のすぐそばには古風な手押しポンプ式の災害時用の井戸がある。それも含めて、なかなか味わい深い。
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車で移動していたのでは見過ごしてしまうだろう。自転車でも、止まるのをためらうかもしれない。自分の脚で気の向くままに走っているから、ちょっと気になるポイントで立ち止まることができる。
58歳になったいまは、走ると言ってもトレーニングの要素は薄い。最低限の脚力を保つための、のんびりしたランニングだから、気持ちのいい場所を見つけたら小休止する。そういう楽しみ方には、このあたりは最適ではないか。
文・写真:吉田(鹿島アントラーズ 地域連携チーム)