厳しい寒さも徐々に和らぎ、春のあたたかさを感じる日が増えてきました。
冷たさはあれど、ぽかぽかと差す陽に、「体を動かしてみようかな」「新しいことに挑戦してみようかな」と、そんな気持ちがむくむくと湧いている方もいるのではないでしょうか?
今回は、開花シーズンよりひと足早く体験した「自転車で東国三社詣で」のレポートをお送りします。
―ロードバイクで東国三社詣で
今回巡ったのは、関東最大のパワースポットと言われる「東国三社(とうごくさんしゃ)」。
「東国三社」とは、茨城県にある「鹿島神宮」と「息栖(いきす)神社」、千葉県にある「香取神宮」の三社の総称です。
江戸時代には「下三宮参り」として、伊勢神宮を参拝する「お伊勢参り」に次いで広く親しまれていたといいます。(伊勢神宮参拝後に三社を巡拝する慣習があったとも)
現在でも、この三社は、パワースポットとしてテレビや雑誌での特集で紹介されるほか、観光バスツアーも行われるなど、参拝客が絶えません。
―そもそも、東国三社って?
そもそも、三つの神社が「東国三社」と併せて呼ばれるのはなぜなのでしょうか?
それは、古事記や日本初期にある「国譲り」神話に由来します。
神話や社伝によると、アマテラスに天界から派遣されたタケミカヅチ(鹿島神宮の主祭神)とフツヌシ(香取神宮の主祭神)が地上の国(日本列島の支配権)をオオクニヌシから受け継ぎ、その道案内にクナドノカミ(息栖神社の主祭神)があたったとされています。
そのような由来もあり、この三社を巡る「東国三社詣で」には、それぞれご利益がある、と人気となり、近年でも「関東最強のパワースポット」として知られている、ということです。
―自転車なら1日で参拝も観光も楽しめる!
この日は、鹿島セントラルホテルを起点に、走行距離約58キロ、獲得標高約270mのコースを設定しました。
徒歩ではちょっと大変な距離ですが、自転車なら1日で参拝も観光も楽しめる距離です。
―息栖神社
ペダルを回すこと約10分。息栖神社に到着しました。
息栖神社は、主祭神に久那戸神(くなどのかみ)」を祀っていて、交通守護や海上守護のご利益があるとされています。サイクリストにピッタリのご利益。
私も日頃安全走行ができることへのお礼をしました。
敷地を囲む樹叢(じゅそう)は、神秘的な雰囲気を帯びていて、背筋が伸びます。
この樹叢は「息栖の森」といって、かつてこの辺りの移動手段として水路が盛んだったころ、船上からの目印とされていたということです。
本殿とは逆の方向に進むと常陸利根川沿いの大鳥居(一の鳥居)の両脇に、「忍潮井(おしおい)」と呼ばれる二つの四角い井戸があります。
井戸の中を覗くとうっすらと見える瓶はそれぞれ、男瓶・女瓶と呼ばれ、縁結びの言い伝えも残るなど、縁結びのご利益もあるそうです。
自転車を駐車場の出入り口付近に置き、二の鳥居をくぐると、木々の葉擦れの音が耳を楽しませます。
境内には、春〜初夏にかけて花を付ける縁起の良い木があり、参拝とともに楽しむことができるようです。
主祭神:久那戸大神(クナドノオオカミ)
相殿神:天鳥船命(あめのとりふねのみこと)
相殿神:住吉三神(すみよしさんしん) 上筒男神、中筒男神、底筒男神の3柱の総称。
“かきつばた香取の神の津の宮の宿屋に上る板の仮橋”
与謝野晶子の第10歌集『青海波』に収録されている歌。
1911(明治44)年初夏に、与謝野晶子は犬吠埼を訪れて大新楼に一泊した後、船で利根川を上り香取神社を訪れたといいます。
―香取神宮
この日最大の坂を登ること数分。香取神宮に到着です。
香取神宮は、武術の神様「経津主大神(ふつぬしのおおかみ)」を祀っていて、勝運・交通・災難除けなどにご利益があるとされています。
レースや記録挑戦を目指すサイクリストはぜひ訪れてみては?
香取神宮は、第一駐車場から参道の入り口までに、複数の飲食店や土産物店が軒を連ねます。
「厄落とし団子」や「むらさきいもコロッケ」など、ほかではなかなか見かけないグルメが目につきました。大鳥居の前までは、自転車の押し歩きもできるということでグルメを楽しむのも良さそうです。
一礼して鳥居をくぐると、砂利が敷き詰められた緩やかな参道が続きます。
そよそとと揺れる風と緑の隙間からゆらゆらと揺れる木漏れ日、ザクザクと砂利を踏み締める音も気持ちが良いです。
参道には、平行して石灯篭が並び、広大さが際立ちます。
カーブを曲がると階段の先に鮮やかな楼殿が目前に広がります。この楼門の額は海軍軍人として知られる「東郷平八郎」の書。
香取神宮は、大日本帝国海軍の艦名「香取」の由来であり、その名は海上自衛隊の練習艦「かとり」にも引き継がれているので、何かつながりがあるのかもしれません。
境内では、樹齢1000年余とされる御神木が静かに揺れ、その荘厳さに思わず見惚れてしまいました。
国の重要文化財にも指定されている本殿は、塗り直しと檜皮葺(ひわだぶき)の修繕がされて間もないということもあって、黒漆塗の柱や壁が艶やかに輝いていました。
主祭神:経津主大神(フツヌシノオオカミ)
―北総の小江戸「佐原」
香取神宮を出発し、約3キロ先にある水郷の町・佐原に向かいます。
江戸や明治時代の商家などが残る香取市佐原地区は、まるでタイムスリップしたかのような景観と雰囲気。
この佐原地区は、かつて利根川水運の中継基地として栄えた町で、「北総の小江戸」とも呼ばれていて、観光客が多く訪れる場所。
私もさわら町屋館にあるサイクルラックに自転車を掛け、通りを散策。
マスクをしたままでも、道ゆく人の楽しさが伝わってきます。
町の中央を流れる小野川での観光遊覧船、レンタル着物なども体験できるほか、小野川沿いにある「伊能忠敬旧宅」では、醸造業などを営んでいた伊能家の土蔵造りの店舗、炊事場、書院、土蔵を見学することもできます。
スムージーになったサツマイモの甘さと黒蜜の甘さが口いっぱいに広がります。ザクザクした食感もアクセントになって大満足の一品です。
―鹿島神宮
最後に向かったのは鹿島神宮。
主祭神の武甕槌大神(たけみかづちのおおかみ)を祀る鹿島神宮は、勝負運にご利益があるとされる神宮です。
水上鳥居としては日本最大の一之鳥居前を通過し、自転車を駐車場に停めると一礼をしてから大鳥居をくぐります。
神武天皇元年(紀元前660年)創建ということもあり、大鳥居から既に神秘的な雰囲気が広がります。
少し風が出てきて、ゆらゆらと揺れる葉の影とオレンジ色の陽が足元で交錯し、別世界に来たような感覚になりました。
続いて楼門をくぐると、巨樹が茂り、より荘厳な雰囲気が漂います。
拝殿の周辺は、日暮れ前ということもあり参拝客もまばらで、落ち着いて参拝することができました。
鹿島神宮の名前にも由来する「鹿」は、いわゆる「神のお使い」。
現在も、鹿園では鹿が大切にされていて、鹿島から移された春日大社(奈良)の鹿の子孫を再び受け継いだものだということです。
そのほか、東京ドーム約15個分の広さを持つ鹿島神宮の敷地には、1日に40万リットル以上の湧水がある「御手洗池」や、地震を起こす鯰(なまず)の頭を抑えているという言い伝えが残される「要石」など、みどころがたくさんあります。
宝物館では、現存する直刀としては、日本最古最大といわれる古代刀、国宝「直刀(ちょくとう) 黒漆平文大刀拵(くろうるしひょうもんたちこしらえ)」(全長約2.7メートル)など、数多くの文化財を所蔵しています。(休館中、所蔵の一部は茨城県立歴史館で保管)
主祭神:武甕槌大神(タケミカヅチノオオカミ)
―東国三社を巡って・・・
今回、ロードバイクで三社を参拝し、爽快感だけでなく、改めて心落ち着く時間を過ごすことができ、新鮮な気持ちになりました。
なんとなく心が落ち着かない昨今。
癒されたい、運気を上げたい、何か新しいことを始めたい・・・そんな時には、東国三社を巡り、五感でその雰囲気を感じてみてはいかがでしょうか?
取材・執筆:高木真矢子